「相続時精算課税」を有効活用するためのポイント 

ご覧いただき、ありがとうございます。

今月は「贈与で失敗しないための基礎知識」というテーマでコラムを書いていますが、今回は「相続時精算課税」について書きたいと思います。

贈与税は、暦年課税と相続時精算課税に大別されますが、多くの人は暦年課税を利用し、相続時精算課税は今イチ人気がありません(8月12日付けコラム)。

ただ、政府は、暦年課税による節税対策を資産格差の拡大・固定につながるとして問題視しており、中長期的には暦年課税から相続時精算課税に移行をさせていくような制度改正が行われるのではないかと思われます(8月19日付けコラム)。

そこで、今回は「相続時精算課税」のメリット、デメリットとともに、有効活用するためのポイントについて書きたいと思います。

1 相続時精算課税の仕組み

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。

相続時精算課税は、贈与時には特別控除額である2,500万円を超える部分の贈与税(一律20%)のみを支払い、その後の相続時に、贈与財産と相続時の財産を合算して相続税を算出し、すでに支払った贈与税を相続税から差引くというものです。

いわば生前相続であり、贈与時には2,500万円までは非課税、それを超えても20%の贈与税で済ませることができます。

将来相続税がかかる場合もありますが、贈与額が多い場合は暦年課税の贈与税よりも軽い負担で済みます。

ただし、相続時精算課税をいったん選択すると、その後同じ人からの贈与は暦年課税に変更することができないことに注意する必要があります。

また、この制度は誰もが利用できるわけではありません。具体的には、以下の要件を満たす必要があります。

・受贈者(財産をもらう人)

 贈与者の子である推定相続人(代襲相続人を含む)および孫のうち、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上である者

・贈与者(財産をあげる人)

 贈与をした年の1月1日において60歳以上である者

 (なお、2023年12月31日までの住宅取得等資金の贈与については特例があり、60歳未満であっても相続時精算課税制度の適用を受けることができます(受贈者も一定の要件を満たしている場合に限ります)。

2 相続時精算課税制度のメリットと注意点

本制度は、特別控除額(2,500万円)を超えた分については一律20%の贈与税がかかりますが、あくまでも「相続時に」精算されます。

したがって、特別控除額内でしたら、「贈与時点で」無税で財産を移譲できます。

このため、以下のメリットと注意点があると考えます。

メリット

① 贈与者の意思で、多額の財産を比較的少ない贈与税で推定相続人に贈与することができます。

② 贈与時の贈与税の負担額が暦年課税方式の負担額よりも小さいので、受贈者に資力がなくても利用しやすいといえます。

③ 贈与財産の種類、回数、金額に制限がなく、特別控除額(2,500万円)内の贈与は贈与時点では無税となります。

④ 相続財産がこの制度利用の贈与財産も含めて、相続時点で相続税の基礎控除額以下でしたら、結果的に無税となります。

⑤ 多額の資産が一度に贈与でき、受贈者は財産の運用益を享受できます。

このうち④と⑤については、後ほど改めて書こうと思います。

注意点

① 本制度の適用を受けますと、撤回をすることができません(すなわち、暦年課税を二度と使えません)。

② 暦年贈与の場合、相続時の「持ち戻し期間」は3年ですが、本制度の場合には、制度適用後の贈与財産すべてが、贈与時の価額で相続税の課税対象となります。

③ 相続税の納付を物納で行おうとした場合、本制度で贈与した財産は物納の対象にできなくなります。

④ 本制度で贈与した不動産には、小規模宅地等の特例を適用することができなくなります。

 (小規模宅地等の特例は、適用できる場合には相続税額を大きく減額できる可能性のある制度ですが、長くなるので、またの機会にご説明します)。

⑤ 相続時に大きく値下がりするような財産を贈与しますと、結果として税額が大きくなります(後ほど改めて書こうと思います)。

3 こんな時には相続時精算課税を活用しましょう!

例えば、お子様が住宅の購入などのため資金援助が必要な場合などには、本制度は有効活用できるのではないかと思います。

また、本制度は、将来相続税がかからない人にもおすすめです。

例1

母と子の2人家族で、母が3,000万円の財産を持っていたとします。

子が住宅を購入することになったので、1,500万円を贈与したいと考えたものの、普通に贈与した場合には多額の贈与税がかかってしまいます。

上の例1は、相続時精算課税を有効活用できる典型例といえます。

相続時精算課税制度を使えば、1,500万円を非課税で贈与できます。

贈与をした後の母の財産額は、3,000万円から1,500万円を引いた1,500万円です。将来、母が亡くなってしまったときには、手元の財産1,500万円に、贈与をした1,500万円を加算した3,000万円で相続税を計算することになります。しかし、3,000万円は相続税の基礎控除の金額を下回るため、相続税はかかりません。

次に、本制度の贈与財産は、相続時に「贈与時の価額」で相続財産に加算されますので、贈与時よりも相続時に値上がりする可能性の高い財産を贈与する際は有効な節税策になります(もちろん、見込みが外れた場合には、その逆となりますが…)。

例2

父が保有しているA社株式について、父は今後間違いなく値上がりすると考えて、相続時精算課税を活用して、時価2,000万円分のA社株式を子に贈与しました。

 この場合、父が亡くなって相続が発生した時点でA社株式の評価額が仮に5,000万円に値上がりしていたとしても、また逆に1,000万円に値下がりしていたとしても、相続税の課税対象となる相続財産はあくまでも贈与時の価額である「2,000万円」ということになります。このため、贈与財産が贈与後に値上がりすればするほど、節税効果も大きくなります。

4 おわりに

今回は「相続時精算課税」について書いてみました。現状、暦年課税と比べてあまり利用されておりませんが、場面によっては暦年課税より有効な節税策となる場合もあると考えます。

前回も書きましたが、いざ活用しようとする際に分からないことがありましたら、ご自身で解決しようとせず、一般的な事項ならばファイナンシャル・プランナーや税理士に、個別具体的な事項ならば税理士(税理士法で定める税理士の独占業務となる)に相談をしながら行うのが良いと思います。

さて、今回が8月の最終週でしたので、このテーマは今回で最後とするつもりだったのですが、まだ大事なことを書き残してしまいました。

なので来週もう1回、このテーマを続けたいと思います。

なお、再来週以降のテーマは現在考えておりますので、決まり次第、改めてお知らせします。お楽しみに!

今回もご覧いただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。