今月から、公的老齢年金の支給額が変わります!

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

今回から3週にわたって、一昨日(5日)に「FMおたる」で放送した「FP辰田のサン・サン・トーク!」とのコラボ企画として、コラムを掲載しようと思います!

一昨日は、「公的老齢年金の仕組み ~今月から、年金額が変わります!~」というテーマで、FMおたるアナウンサーの田口智子さんとお送りしました。

まだお聞きになられていない方は、よろしければこちらからお聞きください。

第1回となる今回は、放送の前半でお話しした、

・ 今年度の公的老齢年金の額は、いくら?

・ 毎年の年金額は、どうやって決められているの?

ということについて、書こうと思います。

放送時間の都合上、放送でお話しできなかったことも色々触れようと思いますので、現在年金を受給されている方はもちろん、私も含めこれから年金を受給される方もぜひ参考にしていただきたく思います。

1 今年度の公的老齢年金の額は、いくら?

最初に、今年度(2023年度)の公的老齢年金の額について書こうと思います。

公的老齢年金には、一般に「老齢基礎年金(いわゆる「国民年金」)と「老齢厚生年金」があります。

最初に国民年金です。国民年金は一般に、20歳から60歳までの40年間すべて保険料を納めた方のほか、厚生年金に加入して働いた方およびその配偶者の方が満額の年金を受け取ることができます。

その額は、

2023年度の老齢基礎年金の額(満額)

・ 昭和31年4月2日以後生まれの人 年額795,000円(月額66,250円

→ 新規裁定者(今年4月1日時点で67歳以下の人)の額で、前年度と比べて月額1,434円(2.2%)の増。

・ 昭和31年4月1日以前生まれの人 年額792,600円(月額66,050円

→ 既裁定者(今年4月1日時点で68歳以上の人)の額で、前年度と比べて月額1,234円(1.9%)の増

なんと、今年度は生まれた日によって、2通りの年金額が登場しました。

ルールとはいえ、ただでさえ分かりづらかったのに、さらに分かりづらい…。

そして厚生年金ですが、こちらはもともと満額といった考え方がないうえ、計算も非常に煩雑です。

ただ、厚生労働省が今年1月に「標準的な年金額」というものを示しています。

この「標準的な年金額」が支給される夫婦は、

・世帯主:平均標準報酬(賞与を含めて月額に換算した額。若干不正確ですが、ここでは「月収にボーナスの月割を加えた額」と考えていただいて構いません)43.9万円で40年間稼働

・配偶者:専業主婦(夫)

としています(最近は配偶者も厚生年金に加入して働く方が増えていますので、このような世帯は少なくなっているとは思いますが…)。

この「標準的な年金額」ですが、

老齢厚生年金の「標準的な年金額」

・ 月額 224,482円(前年度比4,889円(2.2%)の増)

※ この額は、世帯主の老齢厚生年金のほか、夫婦2人分の老齢基礎年金(満額)を含んだ額ですので、ご注意願います。

このように、今年は1.9~2.2%の増額改定となりました。増額となるのは3年ぶりのことで、このこと自体は本当に喜ばしいことです。

ただ最近は、一時期からは落ち着いたものの、物価がそれ以上に上がっています。

直近の消費者物価指数(天候に左右されやすい「生鮮食品」を除く)を見ますと、

・全国:前年比3.4%の上昇(4月)

・北海道:前年比3.4%の上昇(3月)

となっており、物価から見ると「目減り」しているということになります。

ちなみに、すでに年金を受給されている方はご存じでしょうが、年金は偶数月の15日(土日祝日の場合は、その直前の平日)に、その前々月分と前月分が支給されます。

年金額は毎年度改定されるため、すでに4月分から今年度の額に改定されていますが、4,5月分が支給されるのは今月6月15日ですので、今月支給分から年金額が増えるということになります。

2 毎年の年金額は、どのように決められているの?

さて、この「年金額」はどのようにして決められたのでしょうか?

放送でもお話しをしましたが、年金額は、

年金額を決める、2つの「変動率」

物価の変動率

→ 正確には、前年(今年でいえば、令和4年)の物価上昇率)

② 名目手取り賃金の変動率

→ 正確には、2年度前から4年度前(今年でいえば、令和元年度~令和3年度)の名目手取り賃金変動率)

の2つの「変動率」を用いて改定することが法律で定められています。

ちなみに、「名目手取り賃金の変動率」は、不景気時などに急激な変動が起きないよう直近3年間の平均が使われています。また、今年の改定額は1月20日に発表されていますが、この時点では令和4年度の賃金変動率はまだ確定しないため、令和3年度までの3年間の値が使われます。

さて、今年の年金額の改定に当たっては、

・令和4年の物価上昇率 … 2.5%

・実質手取り賃金の変動率 … 2.8% という値が使われました。

※実質手取り賃金の上昇率

=令和元年~3年の実質賃金変動率(0.3%)+令和4年の物価変動率(2.5%)+令和2年の可処分所得割合変化率(0.0%)=2.8%

ちなみに「可処分所得」は、毎月受け取る給料の総額から税金や社会保険料を差し引いた金額のことで、「可処分所得割合」は、給料の総額に対する可処分所得の割合ということになります。今年は変化率が0.0%のため影響はありませんでしたが、この「可処分所得割合変化率」も計算に考慮されています。

また、日本を含め多くの先進国では、年金の仕組みとして「世代間の仕送り方式(これを「賦課方式」といいます)」が採用されていますが、現在は、その支え手である「現役世代の負担能力」(これは、まさに「賃金」ですね)に、年金の給付も合わせましょう、という考え方を取り入れています。

このため、「物価」よりも「賃金」の上昇率が低いときには、既裁定者の年金も「賃金」に合わせることになっています。

今年は最近では珍しく、「物価」の上昇率(2.5%)よりも「賃金」の上昇率(2.8%)が高かったので、新規裁定者は「賃金」、既裁定者は「物価」により年金が改定されたというわけです。

これで「めでたし、めでたし」としたいのですが、「あれ、さっき書いていたことと違うのでは?」と思われた方も多いのではないでしょうか。

そうです、実はここから「マクロ経済スライド」による調整がされるのです。

この「マクロ経済スライド」、テレビのニュースなどでもお聞きになったことがあるのではないでしょうか。ただ、この言葉、具体的にどういうことなのかご存じない方も多いと思います。

「マクロ経済スライド」は、将来世代の年金の給付水準を確保するため、長寿命化や少子高齢化による年金財政の悪化を和らげるための仕組みです。

要するに、「今は年金財政もまだ大丈夫だけど、長寿命化や少子高齢化も進んでいるし、このままだと若い世代が将来年金を受給するときには不安だね。なので、今から少しずつ年金支給額を調整して将来に備えよう!」という考え方のもとで作られた仕組みということです。

そして、この「マクロ経済スライド」は、年金が「マイナス改定」の時に、さらにマクロ経済スライドを発動すると「色々と」問題があるため、「プラス改定」の時のみ発動されます。じゃ「マイナス改定」の時はといいますと「何もなし」ということにはならず、翌年にキャリーオーバーされる仕組みになっています。

本コラムの前半で、「今年は3年ぶりの増額改定」と書きましたが、昨年と一昨年は年金が減額改定でした。このため、昨年と一昨年のマクロ経済スライドがキャリーオーバーされており、この分も今年の年金改定で調整されています。

前置きが長くなりましたが、マクロ経済スライド分として、

・ 今年(令和5年)の年金改定によるスライド分  ▲0.3%のほか、

・ 昨年(令和4年)の年金改定によるスライド分  ▲0.2%、

・ 一昨年(令和3年)の年金改定によるスライド分 ▲0.1%の

合計0.6%分が減額されました。

ちなみに「マクロ経済スライド」の率は、

・ 公的年金被保険者総数の変動率(今年の場合は0.0%)

・ 平均余命の伸び率(今年の場合は▲0.3%)

を基にして毎年計算されています(今年の場合は、0.0+▲0.3%=▲0.3%)。

というわけで、

2023年度の年金額の改定について(まとめ)

・ 新規裁定者(67歳以下の方)は、

「名目手取り賃金の上昇率」2.8%から「マクロ経済スライド」0.6%を引いて、2.2%

・ 既裁定者(68歳以上の方)は、

「物価の上昇率」2.5%から「マクロ経済スライド」0.6%を引いて、1.9%

の年金が増額された、ということです。

いかがでしたでしょうか。放送では時間の関係で、このすべてをご説明できませんでしたが、もう少し細かくご説明をすると、こんな感じになります。よりご理解をいただけたら、嬉しいのですが…。

3 将来の年金は、どうなるの?

本日の最後に、私が「将来の年金」についてどう考えているか、書こうと思います。

放送内でもお話しをしましたが、今の日本の年金には、

・仕組みが2004年に大きく変わり、現在は収入(保険料)を基準として、それに合わせて年金をやりくりする方式となっている

・年金会計では、将来に備えて積立金を積み立ているが、この積立金の額は2021年度末で200兆円以上もあり(ちなみに、現在の年金の総支給額は、年約50兆円強)、着実な運用の成果もあって現在も増加傾向にある

という2つの「事実」があります。

これらの「事実」を踏まえて考えますと、当面、日本の年金財政が破綻するような可能性は極めて低いと思います。

ただし、先ほどご紹介した「マクロ経済スライド」は、今後数十年間続く見込みですので、物価上昇率ほど年金額が増えない、いわゆる「物価に対して目減り」する状況もしばらく続くと思います。

その「目減り」の程度ですが、厚生労働省が2019年に発表した「財政検証」を根拠に、「今後30年間で2割ほど」という記事が多く見られます。

私も一応は、この数字を参考にしながらお客様にアドバイスをしていますが、「この数字は正しくないのでは?」といった記事も多く見かけますし、高寿命化や少子高齢化などといった状況自体も、日々変化しています。

国も、厚生年金の加入者を増やして保険料収入を増やすなどの政策を打っていますが、これはいずれ頭打ちになるでしょう。結局、明快な解決策は、労働者の賃金が上がることで保険料収入を増やすことであり、国や企業も、そのためにより知恵を絞っていただきたく考えるのですが、皆さんはいかがでしょうか。

今回もご覧いただき、ありがとうございました。

今回の「サン・サン・トーク!」とのコラボ企画、来週からは以下の内容でコラムを書こうと思っています。

今後のコラム掲載予定(タイトルは変えるかもしれません)

・6月9日(金) 今月から、公的老齢年金の支給額が変わります!

・6月22日(木) 年金を増やすための方法は?

・6月23日(金) 国民年金保険料を納めないと、どうなるの?

※ 6月14日(水)追記

諸般の事情により、当初6月16日(金)の掲載を予定していた「年金を増やすための方法は?」は、22日(木)に変更させていただきます。

誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承願います。

よろしければ、ぜひご覧ください!

それでは、来週のコラムもお楽しみに!