遺言書を作ってみませんか

今週もご覧いただき、ありがとうございます。

今回は、「遺言書」をテーマに書いてみたいと思います。よろしくお願いします。

1 遺言書を作成するメリットとは?

遺言書を作成するメリットは様々あると思いますが、私自身は、以下の3つのメリットが大きいのではないかと考えます。

1 相続トラブルを回避できる

相続開始時に相続人が2人以上いる場合、被相続人(=亡くなった方)の遺言書がないときは遺産分割協議(相続人同士で話し合って遺産の分け方を決めること)を行う必要があります。その場合、協議がスムーズに進むケースもあれば、残念ながら意見が対立して協議がまとまらず「争い」となるケースもあります。

しかし、被相続人が遺言書を作成していた場合、遺言に従って遺産分割を行うこととすれば、相続人による遺産分割協議を行う必要がなくなります(ただし、相続人全員の合意があれば、遺言書と異なる分割をしても差し支えありません)。このため、遺産分割で揉める余地が小さくなり、相続トラブルを回避できる場合があります。

ただし、既に相続人間の感情に「しこり」が生じているような場合など、遺言書ですべての相続トラブルを回避できるとは限りません。また、せっかく遺言書を作成しても、その内容が例えば、特定の相続人が不公平感を感じる内容ですとか、「誰に」「何を」相続させるのかが曖昧な内容ですと、逆に「争い」が発生してしまうケースもあるので注意が必要です。

2 相続人の負担を軽減できる

遺言書がないケースでは、そもそも何が相続財産なのかがわからず、相続人が相続財産を調べるのに苦労することが少なくありません。特に最近は、ネット証券やネット銀行などを利用する方も増え、より調べるのが難しくなっています。しかし、被相続人が遺言書や財産目録を作成していれば、相続人は相続財産を容易に把握できます。

相続が始まると、相続人はさまざまな手続きで忙しくなるだけに、遺言書を作成しておくことで相続人の負担を軽減できることは大きなメリットといえます。

3 財産を渡したい人に渡せる

遺言書を作成することで、誰にどの財産を渡すのかを自分で決めることができ、相続人以外の人にも財産を渡すことができます。

逆に、遺言書がなければ遺産は相続人が相続するため、相続人以外の人は財産を受け取れません。遺言書を活用することで、例えばお世話になった人など相続人以外の人でも財産の受取人として指定することができます。

2 どのくらいの人が遺言書を作成しているの?

法務省が平成29年度に調査した「我が国における自筆証書による遺言による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査」によりますと、55歳以上の人のうち遺言書を作成したことがある人は、全体の6.8%です(うち、自筆証書遺言を作成したことがある人は3.7%、公正証書遺言を作成したことのある人が3.1%)。

また、年齢が高くなるほど作成したことのある人の割合も高くなり、75歳以上ですと11.4%となっています。

ただ、「遺言書を書くのは面倒くさい」(これが遺言書作成のデメリットといえますね)とか、「わざわざ遺言書を書かなくても大丈夫だろう」と考える方も多く、遺言書を作成している人は少ない状況です(ちなみに私自身は、50歳を前にして遺言書を作成した、非常に少数派の人といえますね)。

3 こんな人は遺言書の作成をおすすめします

基本的には、すべての人が遺言書を作成した方が良いと思いますが、以下の1~6に当てはまる場合は、特に遺言書を作成した方が良いと思います。

1 特定の人に遺贈をしたい場合

原則として、遺言書は法定相続分よりも優先されますので、例えば「妻にすべての財産を相続させる」と遺言書を作成すると、その希望を実現しやすくなります。また現行法では、事実婚のパートナーは法定相続人になれません。このため、パートナーに財産を遺したいような場合は、その旨を記した遺言書を作成する必要があります。

2 分割が困難な財産(不動産など)の割合が多い場合

現金や預貯金と違って物理的な分割ができず、もめる要素の多い財産が不動産ですが、遺言書で誰に不動産を相続させたいかを決めておけば、遺産分割協議が円滑になる場合があります。また、その際には、理由も付言事項(法的効力を目的としない記載事項で、家族等へのメッセージなどの「気持ち」などを記すこと)として記しておきますと、他の相続人にも心情が伝わりやすくなり、同意を得やすくなります。

3 子のいない夫婦である場合

上述のとおり、遺言書がない場合には、法定相続人と遺産を分配することになります。したがって、例えば子がいない夫婦の夫が亡くなった場合、妻と血縁関係のない夫の両親や、(既に夫の両親が亡くなっている場合は)夫の兄弟姉妹(既に兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪)と遺産分割協議をしなければならなくなります。配偶者が自宅にそのまま住み続けたくても、これらの法定相続人がそれを許さないような場合には、実現が難しくなることも考えられます。

4 特定の人に事業承継をしたく考えている場合

会社の財産(自社の株式や事業所の設備など)は、事業承継者にまとめて相続させた方が、会社経営がスムーズにいく可能性が高いのではないかと思います。ただし、その場合、他の相続人が不公平を感じることも考えられます。そのような相続人に対しては、なぜそのような遺産配分にしたかという理由を付言事項に記しておくと、遺産が少ない相続人も気持ちのうえで納得を得られやすくなるかもしれません。また、本コラムの趣旨と外れるので詳細は省きますが、近年は事業承継税制も改正されており、使い勝手もよくなっていますので、活用を検討されるのも良いと思います。

5 相続人に判断能力に欠ける人や行方不明者がいる場合

例えば、相続人が長男と次男である場合に、次男が判断能力に欠ける場合や行方不明者である場合でも、次男を排除して遺産分割をすることはできません。

判断能力に欠ける場合は成年後見人を選任する必要がありますし、行方不明の場合は不在者財産管理人を選任する必要があります。これらの手続きを長男がするのは、大変な労力が必要となりますが、遺言書があると遺産分割協議を行わずに済みますので、手続きが不要になります。

6 法定相続人がいない場合

法定相続人がいない場合の相続財産は最終的に国のものになりますが、世話になった友人や知人に財産を遺したい場合も遺言を書くと遺贈できます。また、自治体や慈善団体などにも遺言によって寄付できます。ただし、いずれの場合も、税負担やその他のコストが発生する場合があるので、相手に受け取りの意思を事前に確認しておきましょう。

4 おわりに

今回は、遺言書をテーマに取り上げました。遺言書ですべての「争い」を防げるわけではありませんが、今まで書いてきたとおり、多くのメリットがありますので、元気なうちに(面倒にならないうちに)遺言書をお書きになってはいかがでしょうか。

なお、上述のとおり、特に自筆証書遺言を作成される場合は、内容の不備などで無効になったり、かえって「争い」を助長するような結果になることもありますので、作成の際には(費用はかかりますが)公正証書として作成をされるか、司法書士などの専門家にご相談をされたうえで作成されるのもよろしいのではないかと思います。

今回は長くなってしまいましたが、ご覧いただきありがとうございました。また来週もよろしくお願いいたします!