知っておきたい「贈与税の配偶者控除」
ご覧いただき、ありがとうございます。
さて、8月は「贈与で失敗しないための基礎知識」というテーマで、4回コラムを書きました。
先週で最後にする予定だったのですが、まだ大事なことを書き残しておりますので、引き続きこのテーマを続けたいと思います(他のテーマを期待していた方、本当に申し訳ありません)。
今回は、「非課税贈与の特例」について書きたいと思います。
過去4回のコラムで、贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」があること、そして、基礎控除額を超えた贈与をした場合は、相応の「贈与税」や「相続税」がかかるということをご説明しました。
しかし国は、「経済を活性化させたい!」などの政策的な理由から、一定の要件に該当する贈与については、「一時的に」「非課税」にする特例を定めています。
せっかくの特例ですので、有効に活用しましょう!と言いたいところなのですが、これらの特例には、適用要件のほか注意点などもあり、これらを知らずに特例を当てにして贈与をすることは危険なことでもあります。
「非課税贈与の特例」はいくつかありますが、今回はその中から、利用者の多い「贈与税の配偶者控除」について書いていこうと思います。
※ 読者に対する分かりやすさを意識して、できるだけ簡素な言葉を用いて書いておりますので、若干厳密さに欠ける表現もあるかと思いますが、ご了承願います。
1 「贈与税の配偶者控除」とは
「贈与税の配偶者控除(以下、「本制度」とします)」は、夫婦間の居住用財産の贈与については贈与税を軽減するという特例で、よく「おしどり贈与」ですとか「夫婦間贈与の特例」ともいわれています。
本制度は、「夫婦の財産は(夫婦の)協力によって作られたもの」という考え方に基づいています。
節税対策として利用されることはもちろんですが、長年連れ添った配偶者に自宅をプレゼントしたいと考える方が利用される例もあるようです。
本制度が適用されますと、贈与を受けた財産の課税価格から2,000万円まで控除することができます。 また、暦年贈与とも併用できますので、実質的には、暦年贈与の非課税額110万円と合わせた2,110万円までを控除することができます。
計算例
夫が所有する自宅とその敷地(評価額6,000万円)のうち、持分の2分の1(したがって、評価額3,000万円)を妻に贈与する場合の贈与税を計算してみます。
(本制度の適用要件は、すべて満たしているものとします)
本制度を適用させた場合
贈与税の課税価額は、
3,000万円-(2,000万円(特例による控除額)+110万円(暦年課税贈与の非課税枠))=890万円
したがって贈与税は、
890万円×40%―125万円=231万円
本制度を適用させなかった場合
贈与税の課税価額は、
3,000万円―110万円(暦年課税贈与の非課税枠)=2,890万円
したがって贈与税は、
2,890万円×50%-250万=1,195万円
※ 両方の場合とも、夫婦間の贈与ですので「一般贈与財産の税率」が適用されます。
このように、本制度を適用させることで、1,195万円―231万円=964万円!! の贈与税が安くなるのです。
ビックリですね!
2 「贈与税の配偶者控除」の適用要件
さて次に、本制度の適用要件について書きたいと思います。
「贈与税の配偶者控除」の適用要件
1 本制度は、婚姻期間が20年以上の配偶者から、2の財産の贈与を受けた場合に適用されます。
(「民法に規定する婚姻の届出でがあった日から贈与の日までの期間」が対象となりますので、事実婚の場合には適用できません)。
2 本制度の適用となる贈与財産は、以下のいずれかとなります。
・ 受贈者(贈与を受けた人)ご自身が住むための居住用不動産(家屋のみでも適用できますし、土地のみでも適用できる場合があります)。
・ 受贈者ご自身が住むための居住用不動産の取得資金
3 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与によって取得した不動産(または贈与を受けた金銭で取得した不動産)に受贈者が実際に住んでおり、かつ引き続き居住する見込みがあることが必要です。
贈与を受けてすぐに売却するような場合には適用できないということです。
4 土地または借地権のみを贈与する場合には、家屋の所有者が配偶者または同居している親族でなければなりません。
5 本制度を活用する場合は、必ず贈与税の申告を行わなければなりません(本制度を使って税額がゼロになった場合でも、申告は必要です)。
6 本制度が使えるのは、同一の配偶者から一生に一度のみです。
また、非課税枠が余った場合(例えば、贈与額が1,000万円だったような場合)でも、残額を翌年以降に繰り越すことはできません。このため適用をする際は、贈与する財産やタイミングなどを慎重に検討する必要があります。
3 「贈与税の配偶者控除」の利用を慎重に検討した方が良い場合
節税メリットが大きいように思える本制度ですが、相続と比べた場合、以下のようなデメリットもあります。
1 不動産取得税がかかり、登録免許税が高くなる
不動産取得税は、不動産の取得に際して課税される税金です。
取得不動産の固定資産税評価額の4%が課税されます(2024年3月31日までに取得した土地・住宅については3%)。
ただし自宅用の不動産の場合等、様々な軽減措置がありますので、不動産の贈与を受ける場合には、各都道府県の税金に関する問い合わせ窓口で確認するとよいと思います。
また、登録免許税は不動産の登記等に対して課税される税金です。
贈与の場合は、固定資産税評価額の2%(2024年3月31日までの登記は0.3%)が課税されます。相続の場合は0.4%(2025年3月31日までの登記は無税)なので、登録免許税も不動産取得税と同様、贈与の場合は不利になります。
なお、登録免許税も軽減措置がありますので、国税庁ウェブサイトの「登録免許税の税額表」などで確認するとよいと思います。
2 「小規模宅地等の特例」を適用できなくなることがある
居住用不動産を配偶者に生前贈与して配偶者の財産となることで、贈与者から配偶者への相続の際に利用できるはずだった「小規模宅地等の特例」が適用できなくなることが考えられます。
(前回コラムでも書いたとおり、「小規模宅地等の特例」は、適用できる場合には相続税額を大きく減額できる可能性のある制度ですが、長くなるので、またの機会にご説明します)。
また当然ながら、本制度を適用して生前贈与をしなくても相続税が0円となるような場合には、本制度を適用して生前贈与をしても、まったく得になりません(むしろ上記の費用増などによって、結果的に損になります)。
このため、本特例による贈与が相続よりも得になるケースは、以下のとおりと考えられます。
「贈与税の配偶者控除」を適用して生前贈与した方が得になる場合
以下の①と②の両方を満たす場合、「贈与税の配偶者控除」を使うと得になるのではないかと考えます。
① 本制度を適用させずに相続をした場合、相続税が発生する
② 本制度を適用して生前贈与した際の節税額が、費用(不動産取得税や登録免許税など)の増加額よりも大きくなる
4 おわりに
今回は「贈与税の配偶者控除」について書きました。
多くの方が利用している本制度ですが、適用要件や注意点もありますので、適用を受けようとする際は慎重な検討が必要ではないかと思います。
ただ、適用をすることで大きな節税メリットを得られる場合もありますし、損得勘定を抜きにして長年連れ添った配偶者に自宅をプレゼントしたいと考える方が適用を受ける例もあり、それはそれで素晴らしいことではないかと思います。
なお、いざ適用を受けようとする際に分からないことがありましたら、ご自身で解決しようとせず、一般的な事項ならばファイナンシャル・プランナーや税理士に、個別具体的な事項ならば税理士(税理士法で定める税理士の独占業務となる)に相談をしながら行うのが良いと思います。
今回は「非課税贈与の特例」について書くつもりでしたが、本特例だけで膨大な内容となってしまい、今回は本特例しか触れられませんでした。このため次回は引き続き、他の特例について書きたいと思います(他のテーマをご期待されている方、本当に申し訳ありませんがもう少々お待ちください…)。
今回もご覧いただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。